スーパーストライク

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月刊「BASSER」連載

「そして、今日も僕はキャストする。」 第4話

BASSER 6月号より


12時のチャイムが鳴ると皆、そそくさと事務所を出て、いつもの定食屋へと向かった。
大盛りのご飯と好みのおかずをオーダーし、それを大急ぎでたいらげて事務所に戻ると、用意してあるロッドを片手に階段を下り、通りの向かいの柵をくぐりコンクリート敷の広場へ出てキャスティングゲームの開始となった。

当時、スミスは恵比寿駅近くの線路沿いにあり、細い通りを隔てて向かいは国鉄の貨物駅の広大なスペースとなっていて、昼休みにそこへ入り込んではキャスティングの練習をするのが日課のようになっていた。

最初は小さなバケツのような入れ物にハリを外したルアーを放り込むのを楽しんでいたのだが、だんだんとエスカレートしてきて、あるとき誰かが木の板を持ち出し、「この上にルアーをピタッと乗せよう。」と言うことになった。
距離は20〜30mはあったと思うが、木の板(的)にプラグを当てることはできても、弾んでしまうことが多く、ピタッと静止させるのは至難の業であった。
それでも何日か過ぎるうちに成功する者が出るようになり、いつしか事務所には成功した回数を正の字で記した表が貼り出されるようになっていた。

当時の仲間は皆、頭のネジが1〜2本抜けちゃったような連中だったから、雨の日以外は毎日のように熱くなってキャスティングを続けた。 誰が常にトップクラスだったかは、いろいろとあるといけないのでここでは言わないことにしておこう。

とにかく、どうしたらソフトに着地させられるか、ルアーの角度はどれくらいで飛んで行くのがよいか、

サミングはどの程度に?

それを可能にさせるロッドは?

ルアーの初速が遅くても伸びを可能にするにはバットのトルクが重要では?

などなどを話したり、私などはバット部分を切って内側に渓流の振り出しロッドの薄いブランクを挿入し、バットのトルクを変えて試したりしながらキャスティングを楽しんだりもした。
だからスパーストライクの新規開発においても皆、暗黙のうちにキャスティングについての共通の認識を持っていて、考え方にブレは無かった。

なんでこんな昔話をしたかと言うと、私はここ数年、市場にあるバスロッドがキャスティングという要素を軽んじているように思えてならないからだ。

「バスに限らずルアーフィツシングは投げて巻いて探るもの!」

バスフィッシングの世界は、トーナメントと言う新しい分野が人気を得て、それが急速に広まった。カーボン素材の技術革新に伴う高弾性クロスの出現とあいまって(それに対応した)新しいロッドが次々と売り出され、市場が大きく発展したのも事実ではある。

しかし、その多くは(特にベイトロッドは)魚を獲ることを第一の目的とした作りで、高弾性カーボンの張りの強さ、返りの速さだけでルアーを飛ばしているようなロッドが多いのではないか?
釣り方もショートレンジが主体で、感度のよいティップでアタリをとらえたら、あとはパワーのあるロッドで一気に引き抜くスタイル。

そこでのキャスティングは単にルアーをスポットに届けるための手段でしかないし、魚の引きを楽しむという考えもないと思われる。

2年ぐらい前に私の友人からこんな話を聞いたことがある。
バス釣りを始めて1年ぐらいの彼の友人が、某有名プロがプロデュースし、大々的に広告を打ち出しているメーカーの新製品を手に入れて使っているのだが、
「どうも上手く投げられないし、直ぐにバックラッシュしてしまい困っている。」
と言って、ロッドを持ってきたという。 それは、ビンビンのロッドでよほど手馴れたエキスパートでなければ使いこなせないトーナメントを意識したものだった。
「これはまだ君には無理だし、第一、釣りのスタイルが違うから」
と忠告したそうだ。 やはりキャスティングがうまくできないとルアー釣りの面白さも半減してしまうのだろう。

キャスティングはスーパーストライカーにおいてはサオ作りの重要な要素にひとつであった。これは今のスーパーストライクにおいても変わらない。すなわち、少し大げさに表現すると・・・・・・。

●ルアーをキャストするとき、ロッドにグゥーと乗ってくる重量感とロッドのたわむ感覚、そこを耐えて、ためて、ピンスポットへキャストする心地よさ。
●ルアーの生々しく動きまわる鼓動を竿先に感じながら操る心地よさ。
●魚とのファイト時に大きくたわむロッドが元に戻ろうとするトルクを感じながらランディングに持ち込む心地よさ。

こんな3つの心地よさ、楽しさ、面白さを感じられるサオ作りを目指している。

バス釣りの基本は、今も昔も岸ギリギリに、ストラクチャーのギリギリにルアーをキャストすること。近年はリールの性能が素晴らしく向上していて、キャスト時の最後の伸びが昔のそれとは明らかに違う。
だから、ロッドとのコンビネーション次第では、岸ギリギリへのキャストもずいぶん楽になったと思う(ただし私は年齢による視力の低下という強敵が現れたので今も楽ではないが・・・・)。

注1
かつて大型のトップウォータープラグでの釣りが中心だった時代に多用されたキャスティング。キャスト時のルアーの初速を抑え、できるだけ静かに着水させるスタイルをこう呼んだ。
でも、バスもプレッシャーが高くなっていてオーバーハングの奥の奥へキャストしないと出ない状況も多くなっているので、昔のように「トロトロポッチヤン(注1)」ではなく、もっと低い弾道で伸びのあるキャストも要求される。必然的にロッドにも変化が必要になるのである。

いずれにしても、綺麗な放物線を描いて飛んでいくルアーを絶妙なサミングで岸ギリギリに送り込めたときの気持ちよさや満足感、キャスティングという行為そのものの楽しさ、面白さをもう一度見つめ直してみてほしい。

人と競う楽しさとはまた違ったバスフィッシングの楽しい大人の世界が見えてくるかも知れないよ!

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